女子中学生コウコツ文字

 
『夏』
 
 GWも終わり中間テストの期日が差し迫るという中、どうもその少女の精神は優れない。なんだか気持ちがふわふわとしているのだ。果たしてこの原因は一体なんなのかしら、と考える。
 バドミントン部のセンパイが厳しくて練習が毎日つらいから? ううん、違う。たしかに練習はハードだけど、バドミントンをやるのは楽しい。夏休み中にあるという合宿だって今からもう楽しみなくらいだ。それとも勉強が難しくって成績が心配? ううん、それも違う。授業のノートだってきちんと取ってるし、それを読み返してきちんと復習すれば大丈夫だって先生も言ってたもん。不安どころか、成績がよかったらパパにおねだりして浴衣買ってもらいたいな、なんて。じゃあ……図書委員で一緒になったF組の白木君? えっ! ち、ちがうよ。ちがうちがう。白木君はそんなんじゃなくて、ただちょっと消しゴムを拾ってもらったときに手が触れただけで……たしかにF組の女の子がうらやましいなって思う気持ちはあるけど……でも……うん、たしかに夏休みずっと会えないのは寂しいけど……。あーあ、どうしてB組には白木君みたいにカッコイイ男の子がいないんだろ。ちぇー。でも白木君も原因じゃないとすると、あ、……最近よくショーツについてる、あの白いの……? ……ううん、ちがう。だってあれは女の人にとって当たり前のことなんだもん。ママが言ってたもん。あれは千夏の体が、大人の女の人になるための準備を始めた証拠なんだって。そのうち胸だって膨らんできて、ママみたいにブラジャーをしなくちゃいけないようになるんだよ。そうだよ、もうすぐ夏が来るんだもん、Tシャツ一枚のときなんか特に、ブラジャーしなくちゃダメなんだよ。そうだよ、だからあの白いのはぜんぜん気にすることじゃないんだもん。恥ずかしいことじゃないんだもん。
 そんな風なことを考えていた少女は、最終的にはたと気付く。頭に浮かぶすべての思慮、すべての感情は、つまりこれが、これの気配が原因だってことに。
 そして少女はその発見を忘れないよう、手の甲にそう記す。1字だけ。
 ここで1句。
 発育すをとめの甲に『夏』来たる