ドメスティック

 
 GWで同居人が帰省するということで、僕も久しぶりに実家で1泊してみた。
 それでびっくりしたのだけど、僕の使っていた部屋が、非常にきれいになっていた。塵や屑や、それ以外の細々したものも一切ない。ベッドと机だけが残っていて、またそれの配置さえも変わって整然としていた。
 祖母の仕業だ。
 そう言えば実家で暮らしていたときも、1年の半分ほどを我が家で過ごす祖母は来るたびに、僕の部屋の掃除をしたくて仕方がないようだった。僕はある時期から部屋に人を入れることを強く拒むようになっていて、実際に母も姉も入ろうとはしなかったのだが(入る理由もなかったろうが)、祖母だけは違って、ことあるごとに僕の部屋への侵入を試みるのである。取り込んだ部屋に置いておけばいい洗濯物とかを、わざわざ僕の外出中を狙って僕の部屋の中に置いたりする。
 その祖母が、僕の支配から抜け出した僕の部屋の掃除をすることは、考えてみれば自明の理なのであった。
 これについて文句を言うことはできまい。新生活に必要なものだけを抜き出した、というような中途半端な引越しをしたあとの部屋はわりと雑然としていて、でももちろん腐るようなものだけは処分して、このまま放置しておいても大丈夫、というようにはしていたのだけれど、散らかっていることには変わりなく、祖母としてはそれが耐えられなかったのだろうと思う。そして僕よりも祖母のほうが実家への滞在日数は多いのだから、たとえそこが依然として名目上は僕の部屋なのだとしても、祖母の管理下に置かれることに不満を述べられる立場ではない。それに僕も反抗期はとっくに終わっているわけだし、と言うかもう共に暮らしているわけではないから、一緒に暮らして顔を合わす人にプライベートな空間を覗かれるのは嫌だけど、そういう意味でも抵抗感というのは以前よりも薄れていたと思う。
 しかし本棚に『電撃姫』の付録DVDが並べられていたのはショックだった。
 ここで主張しても仕方ないのだが、僕は別にそれらを大事にしていたわけでは決してない。日常的にそういったものを部屋で観ていた、という事実も存在しない。不必要だから実家に置いてきたのだ。と言うか未開封である。DVDなんか付けて雑誌の定価が4ケタ行くのってどうなんだとも思う。しかし燃えないゴミとして出すのも面倒くさいから、クローゼットとかに放っぽっといたというのが真実だ。それがきれいに本棚に並べられていた。と言うか量の問題からこっちに持ってくることを断念した、十何冊もの『電撃姫』本誌のバックナンバーも、しっかりと1箇所にまとめられていた。
 また高校時代から書き溜めた何千枚もの日記カードも場所が移動していた。これは半透明のプラスチックケースに入っているから内容は見えなかっただろうが、収められたカードのいちばん上のものは、半透明越しに僕の手による文字が書かれていることが確認できるわけで、だとすればこの分厚い塊はすべて孫の書いたカードとなるわけで、その塊が何十個もあるわけで……という風に祖母は恐怖を感じたかもしれないと思う。実際、恐怖を感じるには難くない体積である。
 祖母の対応がどこかよそよそしかったのは気のせいだろうか。そんな帰省だった。