乳首をめぐる冒険 5

 
 ここまでじわじわと機が熟すのを待っていたファッション業界は、ここで一気に攻めに転じればよい。
 なにしろちょっと興味を持ちはじめたとは言え、これまでの常識などもあって、まだ読者は半信半疑なはずである。本当に私、乳首出してもいいのかしら、と悩むはずである。ちょっと出したい気持ちがあるけど、でももしかしたらやっぱりそれってとんでもないことかもしれないし……。そんな揺れる気持ちで、雑誌の新号が発売されるのだ。その表紙に躍る「見せる乳首」の文字。
 いったい読者の安堵はいかほどか。彼女のほころぶ顔が目に浮かぶ。
 誌面では、「見せる乳首」用の服やブラジャーの紹介に加え、乳首へ施す美容法やアクセサリの着け方なんかも説明されている。懇切丁寧。そして雑誌の中の乳首を出したモデルは、たしかに美しいのだ。これによりブームは一気に爆発する。日本発信。乳首はファッションの一部となる。
 だって考えてみれば、顔の中で唯一の赤みである唇は、さらにその上に紅を塗りつけたりして誇張するではないか。そう考えれば乳房における唯一の赤みである乳首にだって、大きな可能性が隠されているに違いない。しかも左右ふたつあるのだから、いろいろファッション的な拡がりも見込めそうだ。なんだか書きながらどんどん画期的なことを書いているような気がしてきた。錯覚だろうか。
 さらにこの「見せる乳首」を誌面で展開することによる、もうひとつ見逃せないメリットととして、モデルらの乳首見たさに男性も雑誌を買うようになる、ということが挙げられると思う。これにより発行数激増が見込める。考えてみればファッション雑誌とは、異性にモテるためのファッションを紹介するという意味合いが強いのだから、その誌面に載っているものは男性にとって魅力的でなければならないわけである。そして魅力的であれば男だってその雑誌を嗜好品として買うだろう。乳首を載せることで、これまで1年のうち水着特集のある7月号しか成立していなかったファッション雑誌は、真のファッション雑誌となることができるのではないかと思う。