乳首をめぐる冒険 4

 
 よく「裾野を広げることにより頂上も自ずと高くなる」ということが言われるわけだが、それは裏返せば、「頂上が高まれば裾野も広がる」ということだろう。
 特にファッションなんかは努力とかを必要としない、ブームと呼ばれる気運に乗るか否かという話であるから、より一層そちらの傾向が強いのではないだろうか。すなわち、ひとりのファッションリーダーの高みにより、裾野もまた広がり高まる。
 だから「見せる下着」を実現したあとの政策としては、ファッションリーダーによる「乳首チラ」ということになる。これにより乳首は対外的なファッションとして完全に市民権を得ることとなる。
 ここで注意しなければならないのは、そのファッションリーダーによる「乳首チラ」は、決してアートであってはいけないということなのだ。写真集とかで出すのでは意味がない。それではただの「ヌード」である。そんなことをしたら、これまでのファッション業界の長 年に渡る努力は一気に水泡と化す。
 そうではなく、あくまでファッションとしての「乳首チラ」なのだ。だからこれがはじまる媒体としては、一般的なファッション雑誌がいちばんいいと思う。その中で雑誌1号において何百とあるショットのうち、まずは10枚ぐらいでモデルの乳首をチラッと出す。そういう写真を載せる。そして誌面においてそのことはまるで触れない。乳首を出すことは特集記事にもしない。バッグ特集とか、帽子特集とか、スカート特集とか、そういう誌面の中でさらりと乳首が見えているモデルの写真を置く。
 この騒がないというのが大事だ。乳首を出すことが好奇の目で見られてしまってはいけない。それもまたファッション業界の努力を無駄にする行為である。さらり、さらりと浸透させていけばいい。そうすることにより、はじめは驚いていた読者たちも徐々に慣れてゆき、乳首が公開されることは日常の風景となってゆき、そして2ヵ月後ぐらいにはこう思っているはずである。
 私もやってみたい、と。