エロティシズム俳句

 
 浴衣着て少女の乳房高からず   高浜虚子
 
 なんだかんだで虚子だってこういうのを作っていたんじゃないか。
 復本一郎も言っていたが、この句はとにかく「高からず」というところがいい。そうなのだ。少女の乳房は「高からず」なのだ。
 よくバストに対し用いられる「小さい」や「低い」という言葉は、もう成長が止まってしまった女性において、胸のサイズが平均よりも劣る場合に使われるものだと思う。
 まだ成長途上にある少女の乳房は、日一日と発育をしているわけで、そういう状態のことを「高からず」とあえて微妙な否定の表現にするところに、なんだか一気に物語性というものが発生する気がする。
 そして言うまでもなくこれは浴衣の少女を眺めた男の目線の句なのであるが、「高からず」という言い回しはむしろ少女側に意識があるようにも思える。「これからおっきくなるんだもん!」という少女のふくれっ面が思い浮かぶ。
 ときどき少女を眺めていると、少女の気持ちが分かるような気がしてきて、お互いの精神が感応している気分になるときがあるが、この句は17文字の中でその不思議な心のはたらきを表現しているように思える。