プロッペッパッピローニ14世(王族の末裔)

 
 それでおっさんは考えるねん。人類の幸福いうもんについて考えるねん。どうやったらお嬢ちゃんみたいな女の子をしあわせにできるやろか、ってどこまでも真摯に悩むねん。それで気付くねん。仮にいま世界に、おっさんと十代の女の子にのみ感染しない即死性のウィルスが蔓延したとしようや。極限状態や。エマージェンシーや。その末に誕生するのは、社会のルールとかしがらみとかまるでない、おっさんと少女らのシャングリラや。そういうときおっさんにできることはなにか、いうことや。それこそがおっさんの女の子にしてあげられる真実の奉仕なんやね。おっさんは普段からそれを必死に考えてるんや。立派やろ。こんなことをきちんと考えてくれる大人、そうそうおらへんねんで。まあおっさんを崇めろとは言わへんで。ただな、そのことだけは認識しとっといて欲しいねん。おっさんの尊さみたいなものをな。まあお嬢ちゃんにはまだピンと来おへんかもしれんがな、世の中にはいろんなウィルスがおるねんで。そして世の中にはいろんなパラレルワールドがあるねんで。可能性は無限大や。おっさんええこと言うわ。だからおっさんの喋ることに嘘はひとつもあらへんねんで。それでまあおっさん考えるわ。家族や彼氏を亡くしたお嬢ちゃんたちに、どうやったら笑顔を取り戻させることができるんかをな。そうしたとき、おっさんの目線は自然と下がってきよるねんな。これがもう、実にナチュラルにやねんで。自然の摂理いうてもええわ。太陽が沈むかのように、おっさんの首も曲げられよんねん。それで下方へ向けられたおっさんの瞳がなにを捉えるか言うたら、これはもう決まっとるわな、この世に唯一、いや正確に言えば唯二やけどな、ジョイスの筆の下にどっしりと鎮座する睾丸いうことやね。生きものの最大目的が自分の遺伝子を後代に伝えることやとしたら、それの実現のために残された可能性はここにしかないんやで。もはやその世界状況ではこやつらのこと、軽々しく睾丸なんて言えへんで。これは人類の希望や。文明の源泉や。万物の故郷や。お嬢ちゃんら女の子は誰もがこれを求め、ウィルス感染死体のゴロゴロと転がるゴーストタウンを彷徨い歩くねんで。そんなときな、おっさんは決して渋ることなく、大きく門戸を開いて、お嬢ちゃんたちを受け入れよう思とるねん。なぜか言うたらおっさんは聖者やからや。分かるか。おっさんは聖者やから、お嬢ちゃんら十代の少女の不器用で自分勝手な求愛を、自身の体の無理を省みず受け入れよう言うとるんやで。どんだけ尊いねんいう話や。あるいはそれでおっさんは命を落とすかもしれへんで。せっかくの奇跡によって救われた命を、少女らの安心のために投げ捨てるかもしれへん。せやけどたとえそうなってもええねん。本望やねん。おっさん女の子らがしあわせになれれば、それだけで構わん思とるねん。言いたいのはつまりそういうことやねん。お嬢ちゃんは極限状態においては、おっさんの睾丸を求めんねん。そしておっさんは拒まへんねん。なにしろおっさん優しいねん。見返りは基本的に求めへんねん。せやけどこうも思うねん。おっさんはたしかに優しいけど、お嬢ちゃんたちはおっさんの優しさばかりに寄っ掛かっててええんかな、って。緊急の際にはおっさんのこと頼るお嬢ちゃんたちなんやから、緊急じゃない状況において先んじておっさんへの礼をしとくんも、決して悪くないんやないかなってな……(つづく)