サラシやタオルは考慮しないものとする

 
 なんでこんな寒い時期に浴衣について考えているのか自分でもよく分からないが、上の季題をやっていてちょっと思ったことがあったので書く。
 まず思うのは、浴衣のときのブラジャーのことだ。
 浴衣って言うまでもなく非常に頼りない服装である。詳しくは後述するが、なにしろ元々は下着のようなものなんである。それが発展して現代のそれの感じの地位になっているのだ。そのため浴衣がエロいのは当然と言えば当然の話なのである。
 ただし言いたいのは、つい最近になって性を意識し始めたような、ようよう胸のかすかにふくらみし、ただしまだ普段ブラジャーは着けていない中学1年生の女の子(「ブラジャー」は学年題では「中1」)が、夏祭に際しわずか布一枚とも言える浴衣姿で、友達に誘われ繰り出そうとしたとき、普段は肌シャツなどが守ってくれている自らの乳房が、やけに不安に思えたりするのではないか、ということである。だけどそれの打開策として浴衣の下にシャツを着るようなことは、お父さんはやっぱり絶対に許さないわけである。浴衣の首元からシャツなんか覗いた日には、お前はもうお父さんの子どもじゃないよと。
 そしてそんなとき、少女って仕方なくブラジャーを着けるのではないだろうかと思う。もしかすれば夏祭の夜というのは、中学1年生の少女たちがブラジャーを生まれて初めて着ける日なのではないか。そして夏祭の高揚した雰囲気だったり、乳房以外にも全体的に頼りない浴衣だったりというのは、もちろん少女の心になんらかの影響を及ぼすのは間違いないけれど、それよりも実は少女の頭の中の大部分は、これまでずっと大人の女性の象徴であったブラジャーがいま自分の胸を覆っているという、そのことにばかり支配されているのではないか。そんな風に思う。
 しかしその一方で、浴衣であるからこそのノーブラ、というのもやはり無理のない考えであると思う。むしろオーソドックスな発想はこちらのほうだろう。「浴衣→ノーブラ」という発想は珍しいものではない。むしろ新しいのは上の「浴衣→初めてのブラ」という発想のほうである。
 なにしろ中学1年生のその日以来、女の子は365日ずっとブラジャーを着けて生きるわけである。もしもそれを外すに相応しい日があるとすれば、それは一体いつだろうかと考えてみればいい。そんなの祭の日しかない。ハレとケである。そもそもがそういうための日であろう、祭というのは。土着的文化なき新しく開発されたベッドタウンの、自治会が運営するイベントとしての夏祭のごときものには、1年間溜めていたものを一夜で晴らすような、古来の祭としての役割はほとんど失われてしまったと言えるが、ただし唯一少女らの乳房にのみそれは発生するのではないかと思う。普段は封印されているそれを解放する夜。そこにのみ祭のシステムは生き抜いているのではないか。そう考えれば、祭の夜というのはブラジャーを外す夜である。
 つまり「初めて着ける日」でありながら、翌年以降は一年で「唯一の外す日」になるのだ。少女にとり浴衣姿で過ごす祭の夜というのはブラジャーを。そういうことなのだ。そしてまたちなみに言えば、このことを詠むのは季題俳句では不可能である。なぜなら季題では夏を詠むだけだからだ。1年周期で同じものが巡り来たる季節やイベントに対し、少女の時間的な成長、それによる行動や心境の変化というのは、学年題俳句の詠むところである。ここに学年題俳句の存在価値は生まれると言うこともできよう。
 次に言いたいのはやはり、浴衣はもともと下着のようなものであったということだ。正確に言えば下着とも違って、どういう扱いだったのかと言えば、夏の行水あとにサッとそれを羽織り、そのままで過ごすというものだったのだ。もちろん裸に布を1枚着けただけのものであるから、危険きわまりないことは言うまでもない。とは言え当然これで外に出るようなことはなく、自宅で過ごすためだけの格好だったから問題がなかったわけである。浴衣とはそういうものだった。それが紆余曲折を経て今のものになった。
 それではこのエピソードを知ったとき、僕らは一体どうすればいいだろうか、ということである。裸の上に羽織るもの、それで堂々と外へと繰り出す少女たち、そしてその下にはショーツが穿かれもし、さらには上記のようにブラの問題に頭を悩ませたりもする。なんだか実にゴチャゴチャしている。下着として受け取れば、「下着が堂々と公開されている!」という悦びを感じることもできよう。ただしその下にはショーツがあるわけだ。さらには「下着が堂々と公開されている!」で思い出すのが、これまでもさんざん述べてきた問題としての「下着と同程度の面積しかないのに堂々と公開される水着」の存在である。そして水着の下に下着は着けない。制服の下に水着を着けることはある。じゃあ水着は下着なのか。ならば浴衣の下に水着もありか。しかし浴衣は下着ではないのか。
 僕らは一体どうすればいいのか。