希木

 
 進化論の話でキリンの首の例がよく出るわけだが、その説明というのは「突然変異により首の長くなる遺伝子を持った個体が、より高い位置の草も食べることができるなどの理由によって生存競争に勝つ可能性が高まり遺伝子が多く次代につながるため、やがては種全体の首が長くなる」というのがだいたい一般的である。
 しかし今日ふと思ったのだが、これは必ずしも「突然変異により首の長くなる遺伝子」でなくてもよいのではないだろうか。
 すなわち、「突然変異によりいつだって高いほうを眺めていたい心持ちになる遺伝子」でもいいと思う。そうすればやっぱり低いほうに目を向けることのある一般の個体よりは、そいつだけ背が高くなるんだと思う。だって神経が上向きに行っているわけだから。うん、科学的根拠はないけどきっとそういうのはある。
 そしてそれが環境に適合していた場合、そいつだけがやはり生き残り、次代に遺伝子をつなげるだろう。そしてその遺伝子は世代を重ねるごとにどんどんその度合いを増していって、今ではもう「高みを目指さずにはいられない遺伝子」となっていて、だからもうキリンとか生まれたときから首が長えんじゃねえの、と。
 あるいは「突然変異によりいつだって高いほうを眺めていたい心持ちになる遺伝子」は、「突然変異によりいつだって目の上らへんになんか異物感がある遺伝子」でもいいと思う。それが気になって常に眼球を上に向けてぐなぐなしていたら、それはつまり上のほうを眺めているのとおんなじだ。気付けば背も高くなっているだろう。
 そしてその「目の上らへんに異物感」というのに思いを馳せたときに、ピカーンと脳内にやってくる着想があり、それは「そう言えばキリンは必要以上にまつ毛がすごい」ということである。すごい、見事なまでに事実とつながった。実際あれは邪魔そうだ。
 だから「突然変異によりいつだって目の上らへんになんか異物感がある遺伝子」もまた言い換えることが可能で、要するにそれは「まつ毛が立派遺伝子」になるのだと思う。突然変異で首が長くなるとか実際ちょっと嘘くさい雰囲気があるけれど、突然変異でまつ毛が立派、というのはなきにしもあらずだと思う。
 つまり『キリンなぜなぜ首長い』の答えは、『まつ毛が立派だから』ということになるかもしれないな、と思った。