つぶやき

 
 株ブームな昨今であるわけだが、本屋でもよくそちらの本が売れる。
 しかしブームに煽られたのかなんなのかよく分からないが、いかにも素朴そうなおじいちゃんとかが、「この本さえ読めば株で1千万儲かる!」みたいな本を買っていくのはいただけないと思う。正視ができない。涙が出てしまいそうになる。
 もちろんおじいちゃんの実情なんて実際ぼくは知らないけれども、たとえばこのおじいちゃんにはこれからの生活に不安があって、お金がもうちょっとあればいいと思っているわけである。そこへやってくる株ブーム。メディアによると、いま株をやればすごく儲かるらしい。おじいちゃんは下手に、本当にあらゆる株の値が上がったバブル期のそれを目の当たりにしているせいで、今回の株ブームにそのときの幻影を見出してしまうのに違いない。そうしておじいちゃんはなけなしの金で株式投資をはじめる。しかし今回の株ブームは悪い人たちが企んだ邪悪なものであるからして、無知なおじいちゃんがあっという間に身ぐるみ剥がされることは確実である。かくしておじいちゃんは、それまでよりもさらにつましい生活を送ることを余儀なくされる。そして彼はその生活の中でこう絶望するのだ。ああ、なんて哀しい人生だったんだろう、と。
 なにが哀しいって、お金がないのが哀しいのではない。そうではなく、こんな世相の中で死んでいくのが哀しいのである。貧富の差が拡大し、幻想の好景気が捏造され、株ブームが来たと言い張り素人を巻き込んで、彼らを株式という壮大な欺瞞装置に放り込んでは、悪いお金をたくさん持っている人たちが、彼らの持っているわずかな金銭をも合法的に奪う、このハルマゲドン後の荒くれ者のごとき、山賊のごとき、餓鬼のごとき所業が、もはや「まかり通る」という表現を超え、さながらそれを巧みに行なう者が時代の代表かのように尊ばれる、セレブだのヒルズ族だの勝ち組だのという、そういうさもしい世相の中で死んでいくのが哀しいのである。
 ああ、巨大悪に立ち向かうにはどうしたらいいんだろう。
 宗教とか洗脳とかしか思い浮かばないよ。