女子中学生コウコツ文字

 
『 ● 』
 
 黒い丸である。直径は8mmくらいだろうか。とにかくなんの変哲もない『 ● 』だ。さてそれでは女子中学生が手の甲に黒い丸を記す意味とはなんだろうかと考える。だが答えは出ない。だってそもそもそんなものは存在しないのだ。『 ● 』は『 ● 』を描こうとして描かれたのではなく、先にその下に記されたなんかしらの文言を、打ち消すために描かれただろうからである。それではその「なんかしらの文言」とは一体なにか、という話である。まずそれが『 ● 』のサイズから言って1文字であることは間違いない。じゃあ女子中学生がその上を黒く塗り潰し、打ち消してしまった1文字とは一体なにか。これはあらゆるコウコツ文字解読のうちで、最たる部類の難易度じゃないかと思う。可読の文面である場合、たとえそれがどんなに半端なものであっても、イメージを膨らませることは容易い。ところがこれは文面が消されてしまっているのだ。取っ掛かりがなにもない。それに手の甲に記された『 ● 』から導き出した、「なにか1文字を消したのだろう」という推測、それをスタートに女子中学生の心情を推理するならば、逆もまた真理であるからして、『   』からも僕は女子中学生の心情を推理しなければならないということにならないか。そのなにも書かれていないまっさらの手の甲こそが、女子中学生の究極のコウコツ文字なのだ、と。そういった禅問答のごとき…………ってあれ、いや待てよ? まっさらというところで僕はようやく気付く。もしかしてこれ、手の甲に『 ● 』とあるこの目の前の女子中学生、ホントは実際まっさらなんじゃないの? もしかして『 ● 』、…………これホクロなんじゃないの、って。
 ここで一首。
 ゆとりもち●こいするしおま●ことさらに 舟漕ぎ人はゆっくりと●する